セックスが嫌い
私はセックスが嫌いだ。
人間の三大欲求にいつも違和感を覚える。
食事、睡眠がないと人間は割と簡単に死ぬが、セックスせずに人生を全うした人間はたぶんごまんといるだろう。種を残すことが生物にプログラミングされた最大の任務であるかもしれないけど、不妊症だとしてもその人がとびきり素敵なことに変わりはないし、私は一生セックスをせずに皆が死ぬ世界線に生きられたら楽だろうな~と思う。一緒にベッドに入ったら眠くなるまで取り止めのないことを話し、朝はスッキリ起きて一緒に朝ごはんを食べる。それだけで十分に幸せだと思うのだ。
純然たる生殖行動以外にも、コミュニケーションだったりエンタメだったり快感だったり色んな手段として認知されているセックスだが、私はシンプルに身体の接触における快感の閾値が非常に低く、創作活動だったり議論だったりビジネスだったりの方がよっぽどエクスタシーを感じる。だったらセックスしてる時間を精神的なエクスタシーに充てたい。
というとセックスは心の交流だと言う人がいるが、セックスで愛情を確認するという意味が私には未だに分かっていない。今まで何人と性行為を重ねたかは覚えてないが、ただの一度もセックスでしか得られない愛情を知覚できたことはなかった。相手に愛情はあったかもしれないがその手段がセックスである必要はなかった。むしろセックスしてる時相手を見ながら「この人今どれくらい私の存在を認知できてるんだろうな~」と思ってしまうほどに最中の私は相手の快感のためのツールに徹している。
という話を、働いていたバーである既婚の男性に話したら「それはいいセックスをしてこなかったんだよ」と言われ、それもそうかと思い、ポケモン図鑑を揃えるような軽い気持ちで色んな人とセックスするようにしたら余計分からなくなった。後から考えるといいセックスをするということは、色んな人で試して見つけるというよりも、一人の人とクオリティの高いセックスをするということな気がした。これに関しては痛恨のミスだった。無駄にセックスの嫌な思い出が増えてしまった。
あまりにも周りの人がセックスを楽しめない私を哀れむので、最終的に私は自分に暗示をかけることにした。「これは世界で一番楽しい行為でめちゃくちゃ気持ちよくて私は心から愛されてて超幸せなんやー!!」という感じだ。かなりの集中力を要するので、少しでも気になること(例えば部屋が明るすぎるとか、窓が開いてるとか、暑いとか、髪の毛引っかかってるとか、首が痛いとか)があると途端に失敗する。
終わった瞬間には「やっと終われた」とつい心のどこかで思ってしまう。女の子は行為の後しばらくイチャイチャしたがるみたいな言説が世に出回っているが(それって本当ですか?女性陣の皆さん)、私の賢者モードは世の男性陣のそれを凌駕する。お腹が冷えるからなるべく早めに服を着たいし喉が乾くから水を飲みたいしもし夜遅ければ速やかに睡眠体制に入りたい。
そしてそんな風に感じる私自身を「今日も楽しめなかった」という自己嫌悪が襲い、生き物として欠けているような気分になって、深い悲しみを覚える。
そろそろ「じゃあ断れよ」という声が聞こえてきそうだが、それであからさまに相手がテンション下がったり不機嫌になるのがセックスをすること以上に嫌なのだ。我ながら面倒な奴だ。
断った瞬間に手のひらを返したように不機嫌になる人や、「まあ仕方ないよね」と言いながら背中を向けて寝る人や、自分から懇願してきて無理やり始めたくせに終わった瞬間に「わ~時間やばい!」となぜか若干キレながらまだ服を着ている最中の私をおいていく人に、どれだけあなたは下半身の奴隷なんだと思うと同時に「私にはセックスすることしか価値がないのだな」と実感してしまって、何とも言えない虚しさを感じてきた。これがワンナイトの相手とか、純粋なセフレならまだしも、全員当時付き合っていた人だった。
そういうのが積み重なって、セックスが嫌いなのに断るのが怖くなって、「數十分ガマンすれば大丈夫」と自分に言い聞かせるようになって、余計セックスが嫌いになった。
でもどうやら最近セックスが嫌いな人って増えているらしいですね。なんのエビデンスもないので実態は分かりませんが。ということでセックス嫌いを代表していくつか世の中に「ちょっとでも不快指数を減らすための超個人的な見解」をシェアしておきます。
ベッドへの持っていき方が気負いすぎていると確実に伝わってくるのでヤりたい感をあまり出さないでほしい。始まるまでに「うわ~やらなあかんのか~」と考える時間が短ければ短いほど抵抗感が少なくて済むからだ。ロマンチックな雰囲気を楽しんでいたらシームレスに服を脱いでいた、とか「あ、やる?どっちでもいいけど」ぐらいが理想だ。
「痛い」とか「嫌だ」とか言ったらすぐ止めてくれる人もありがたい。というか止めない人ってなんなんでしょうか?最中だけ耳が聞こえなくなる病気とかあるんですかね?「痛かったら言ってね」って真面目に言ってくれる人も超ありがたい。「止めて嫌な思いをさせたくない」というプレッシャーから少しだけ解放されるから、まだ楽しむ余裕が生まれる。
テクニックとかは正直そんなに求めてない。今まで自称「セックス上手い」人に「本当だ~!すごい~!」ってなった試しがない。それより浅い経験なりに頑張ってくれてる方が好感が持てるし、終わった後にゴムの包装をちゃんとゴミ箱に捨てて帰ってくれる方がよっぽどありがたい。ベッドの横に水を置いておいてくれていたり、机の上に放置してたiPhoneをさりげなく充電してくれていて朝起きたらフル充電できてた、とかの気遣いが出来る人の方が自称テクニシャンよりずっとセクシーだ。
と、散々セックスを悪者にしてしまったが、別に悪いことでは全くないし、楽しめたらいいな、と本気で思ってるんですよ。スキンシップは好きなんだけどなあ。いい方法がある人は教えてください。